1.研究テーマ
空間としての百人一首 ~かるたから景観への回帰~
現代では小倉百人一首は競技かるたや札のイメージが定着し、多くの世代に長く親しまれている。だが、その起源は藤原定家が京都の小倉山荘のふすまを飾るために『古今和歌集』などから和歌百首を選定し色紙に書いたことにあり、本来は壁面装飾であった。札という小さな枠に収まる前の「歌が景色として部屋に存在する」という空間体験を現代の映像技術を用いて復元し、日本独自の情緒的な美意識を没入型の視覚体験として再構築することを目指す試みである。
2.背景・問題意識
小倉百人一首はインテリア
小倉百人一首は現在では主に競技かるたなどの札として広く知られているが、その起源は藤原定家が小倉山荘のふすまを飾るために選定した和歌百首であり、本来は空間を彩る「インテリア」としての役割を担っていた。しかし現代では、札としてのイメージが先行し、和歌から情景や季節、感情を想像して味わう機会は少なくなっている。また、壁面装飾として成立したという歴史的背景もあまり知られていない。このような百人一首本来の空間性が失われている現状に着目し、その価値を現代の表現で見つめ直したいと考えた。
3.問い
百人一首は空間として再現できるのか
本研究では、札という小さな枠の中に閉じ込められている和歌の世界を、映像によって空間へと広げたとき、鑑賞者はその情景に没入できるのかを問いとした。また、藤原定家が壁面装飾として意図した小倉百人一首を現代の映像技術で再現することで、本来の役割や魅力を現代に伝えることができるのかを検証する。和歌を読むだけではなく、空間全体で体験することで、小倉百人一首が持つ風景や情緒をより身近に感じられる新しい鑑賞の形を探ることを目的としている。
4.表現方法
壁面投影による和歌空間の再現
本作品は、プロジェクターを用いて白い壁面に映像を大きく投影し、百人一首が本来持っていた空間性を現代の展示として表現した。映像には、「花の色は」と「かささぎの」の二首を題材とし、それぞれの和歌を独自に解釈した風景を、イラストと和歌の文字を組み合わせて制作した。和歌に込められた季節や情景、時間の流れを壁一面に広げることで、札という限られた枠ではなく、空間全体で百人一首の世界を感じられる展示を目指した。鑑賞者が和歌の世界に入り込み、その情緒や風景を体感できる空間の構築を試みた。
5.今後の展開
百人一首の新たな体験を目指して
今回は二首の和歌を題材とした映像作品を制作したが、今後は他の和歌についても映像表現のバリエーションを増やし、百人一首全体の多様な情景を空間として表現していきたい。また、現在はあらかじめ用意した映像を上映する形式だが、将来的には鑑賞者が壁面の札に触れたり、動きに反応するセンサーを用いたりして、鑑賞者が選んだ和歌に応じて映像が切り替わるインタラクティブな展示へ発展させたい。鑑賞者自身が百人一首を選び、その世界へ入り込める、より体験性の高いインスタレーションを目指したい。
企画・制作
曽根美月
曽根美月
使用ソフト・ツール
Adobe After Effects 2026 / CLIP STUDIO PAINT / Adobe Premiere 2025
参考文献・参考作品
国立国会図書館デジタルコレクション 小倉百人一首<https://dl.ndl.go.jp/pid/2541162/1/6?page=right >(アクセス日:2026/7/13)
藤田美術館 小倉百人一首のルーツを探る<https://fujita-museum.or.jp/topics/2020/05/08/914/>(アクセス日:2026/7/13)
協力
三上舞子